カツ丼小僧の大岡裁きが終わると、皆、その場から、三々五々、散りばめて帰って行った。
カツ丼小僧は、大勢の人達が談笑し合いながら帰って行くのを見届けると、一人呟いた。
「これで、俺の長年に及ぶ復讐を果たしたという訳か………、
本当に、これで終わりにしていいのか、………これで………?
だとしたら、俺はあまりにお人好しだ………。」
カツ丼小僧が、そう、夜風に当たりながら、ニヒルな感慨に耽っていると、
後の方から、ややハスキーで可愛らしい、女の声が聞こえた。
「カツ丼小僧さん、よろしかったら、私と一緒にドライブしません?」
カツ丼小僧が振り向くと、そこには目鼻立ちの整った、色白の美女が、車の運転席から、
ハンドルに膝をつき、自信に満ちた表情で、カツ丼小僧に涼しげな視線を送っていた。
赤のレクサスのオープンカーの高級感に満ちた車体が、彼女の持つ雰囲気にぴったりマッチしていた。
カツ丼小僧は、暫く呆然として、その女を見つめていたが、ふと我に返ると、ニッコリ微笑んで、
「うん、頼むよ、今、ちょうど、そんな気分………、
夜風に当たって、ドライブしたい気分だったんだ。」
「私ね、車の運転、得意なのよ。 さ、乗って頂戴。」
カツ丼小僧が助手席に乗り込むと、彼女は鍵を回して、アクセルを踏んだ。
両脇を森林に囲まれた広い道路の中を、車は滑り出した。他に車の影は殆ど見られなかった。
車は、どんどんどんどん、スピードを増して行った。
「おい、平気かい? そんなにスピードを出して?」
「あら、何言ってんの? あなたのためよ。」
「え? 俺の………?」
「だって、さっきの警官が怒り狂って、パトカーで追跡して来るかもしれないわ………。」
「……………………。」
「ふふ、冗談よ。………でも、さっきのカツ丼さん、カッコよかったなぁ………。
いつも、あんな風に、カッコよく、相手をやっつけちゃうんですか?」
彼女は、さも感心したように呟いた。
「いや、今回は、ちょっと、たまたまうまくいっただけさ。
いつも、自分の思い通りに行く訳じゃないよ。
まぁ、今回は長年の恨みがたまっていたからね、 うまく凝縮して吐き出せたんだと思うよ。」
「ね、カツ丼さん、 私を、カツ丼さんの恋人にしてくださらない?」
「え?」
いきなり不意をつかれて、カツ丼小僧は、とまどった。
「い、いや、俺ね、 今の今まで、一度も女の子と付き合った事がないんだよ。
どうやって付き合ったらいいのか、付き合い方がわからないんだ。 車の運転もできないし………。」
「車の運転なら、私が得意よ。 それに付き合い方だなんて………。
なんなら、今すぐ、ホテルに直行しましょうか?」
「あ、あのねぇ、君………。」
カツ丼小僧は、暫く、目をつむったまま考えていると、
「よし、じゃあ、俺のマンションにまで、行ってくれるかな………。」