カツ丼小僧氏の優雅な生活。 21

カツ丼小僧の大岡裁きが終わると、皆、その場から、三々五々、散りばめて帰って行った。

カツ丼小僧は、大勢の人達が談笑し合いながら帰って行くのを見届けると、一人呟いた。

 

「これで、俺の長年に及ぶ復讐を果たしたという訳か………、

 本当に、これで終わりにしていいのか、………これで………?

 だとしたら、俺はあまりにお人好しだ………。」

 

カツ丼小僧が、そう、夜風に当たりながら、ニヒルな感慨に耽っていると、

後の方から、ややハスキーで可愛らしい、女の声が聞こえた。

 

「カツ丼小僧さん、よろしかったら、私と一緒にドライブしません?」  

 

カツ丼小僧が振り向くと、そこには目鼻立ちの整った、色白の美女が、車の運転席から、

ハンドルに膝をつき、自信に満ちた表情で、カツ丼小僧に涼しげな視線を送っていた。

赤のレクサスのオープンカーの高級感に満ちた車体が、彼女の持つ雰囲気にぴったりマッチしていた。

 

カツ丼小僧は、暫く呆然として、その女を見つめていたが、ふと我に返ると、ニッコリ微笑んで、

 

「うん、頼むよ、今、ちょうど、そんな気分………、

 夜風に当たって、ドライブしたい気分だったんだ。」

 

「私ね、車の運転、得意なのよ。 さ、乗って頂戴。」 

 

カツ丼小僧が助手席に乗り込むと、彼女は鍵を回して、アクセルを踏んだ。

両脇を森林に囲まれた広い道路の中を、車は滑り出した。他に車の影は殆ど見られなかった。

車は、どんどんどんどん、スピードを増して行った。

 

「おい、平気かい? そんなにスピードを出して?」

 

「あら、何言ってんの? あなたのためよ。」

 

「え? 俺の………?」

 

「だって、さっきの警官が怒り狂って、パトカーで追跡して来るかもしれないわ………。」

 

「……………………。」

 

「ふふ、冗談よ。………でも、さっきのカツ丼さん、カッコよかったなぁ………。

 いつも、あんな風に、カッコよく、相手をやっつけちゃうんですか?」

 

彼女は、さも感心したように呟いた。

 

「いや、今回は、ちょっと、たまたまうまくいっただけさ。

 いつも、自分の思い通りに行く訳じゃないよ。

 まぁ、今回は長年の恨みがたまっていたからね、 うまく凝縮して吐き出せたんだと思うよ。」

 

「ね、カツ丼さん、 私を、カツ丼さんの恋人にしてくださらない?」

 

「え?」

 

いきなり不意をつかれて、カツ丼小僧は、とまどった。

 

「い、いや、俺ね、 今の今まで、一度も女の子と付き合った事がないんだよ。

 どうやって付き合ったらいいのか、付き合い方がわからないんだ。 車の運転もできないし………。」

 

「車の運転なら、私が得意よ。 それに付き合い方だなんて………。

 なんなら、今すぐ、ホテルに直行しましょうか?」

 

「あ、あのねぇ、君………。」

 

カツ丼小僧は、暫く、目をつむったまま考えていると、

 

「よし、じゃあ、俺のマンションにまで、行ってくれるかな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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