「ちょっと待ってろよ、今、テンポのいい音楽を掛けっからよ。
それに合わせて踊ってくんな。」
カツ丼小僧は、さっそくパソコンで音楽をダウンロードし始めた。
「よし、この曲に決めた ! この曲に合わせて踊ってくんな。」
カツ丼小僧が流した曲は、マイケル・ジャクソンの「スリラー」だった。
「え? 三遍回ってワンじゃなかったんですか?」
「いやいや、こっちの方が面白そうだ、 こういう事は臨機応変にいかなきゃ。」
「でも、マイケル・ジャクソンの「スリラー」なんて知りませんよ。 お前知ってるか?」
年長の警官が、若い警官に、そう尋ねたが、若い警官も知らない風だった。
カツ丼小僧は、呆れかえって言った。
「まったく………、マイケル・ジャクソンも知らないのか………。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」なら、普通、ミュージック・ビデオで見て、
大概の人は知っている筈だが………。
しょうがない、今、その映像を用意するから、繰り返し見て覚えてくれ。
やるのはそれからだ。 本当に、世話の焼けるお巡りさん達だ。」
カツ丼小僧は、そう言って、一時間程かけて、二人の警官に「スリラー」の振り付けを憶えさせた。
「ようし、これで憶えたな、いいか、 絶対に忘れるなよ。
これを最後に許してやるって言ってんだ、寛容な俺に、幾らかでも感謝しろよ。
本当だったら、積年の恨み、いくらなぶり殺しても殺したりねえぐらいなんだ。」
そう言ったその瞬間、カツ丼小僧は、いいアイディアを思いついたようだ。
「そうだ、外に出て、この踊りをビデオに撮影しよう。
日も暮れているようだし、「スリラー」撮影に、おあつらえ向きだ。
さあさあ、皆さんも、全員、外に出てください。
これから、世紀の一大ショーが始まりますよ。」