「博士、昨日は、羨ましい話でした………。となると、今日は………。」
「そうじゃ、不愉快、かいかい、不愉快極まりない話じゃ………。」
「また、警察官やホテルマンの話………?」
「うむ、そうだと言いたい所じゃが、あまり同じ話ばかりしても、読む方もつまらん思うてな………。
その話は、後々、カツ丼小僧氏に任せよう。 彼はもう、余裕綽綽じゃよ………
警察もホテルも、空想世界の中では、完全に乗っ取ってしまっていて、
いずれは自分の物となる、と言っておる………。 法律も一切通用しない、と………。
スケールの大きな事を本気で長期間考えた者が勝つんだそうだ………。」
「どうしてですか? どうして想念の力が勝つんですか?」
「それはワシにもよくわからない………、その事については、カツ丼小僧氏に聞いてくれ。
今回の話は、礼儀知らずの、鯛焼き屋のババアの話………。」
「鯛焼き屋のババア? 鯛焼き屋のババアがどうかしたんですか?」
「うむ、数年前の話なんじゃがな、あれは、浅草での出来事じゃった、
道を歩いていて、何か、急に甘い物が食べたくなって、
目の前に、鯛焼き屋の屋台を見つけたので、そこで、頬かむりをしていた婆さんに、
「あのう、鯛焼きが欲しいんじゃが………、」と言ったら、
その婆さん、にやけた顔をして、三本、指を突き出して、「みっつ?」と言いよったんじゃ。
ワシは、別に一つしか食いたくなかったから、「いや、……一つ。」と言って、
指を一本、突きたてたら、その婆さん、どんなリアクションをしたと思うかね………?
「はぁ~~~っ、」と、大きなため息をついたかと思うと、無念そうにガクッと首を落として、
「はいはい、一つですか、一つねぇ……。」とつぶやいて、無造作に鯛焼きを一つ、
紙の袋の中に放り込むと、「はいよ、」と、ぶっきら棒にワシに突き出したんじゃ。」
「確かに嫌なババアですね………。礼儀知らずは若者ではなく年寄りにあった、
という事ですか………。 でも、どうして博士は、そんな事で目くじら立てて怒っているんですか?
特段、ここで取り上げて話題にするような事でもないと思いますが? どうしてですか?」
「いや、この一件に限らず、どうも最近、礼儀知らずな人間が増えて来ておるような気がするんじゃ。
先日も、焼き鳥屋で、二千円分もの買い物をした後に、その店の女店員が、
「この、鳥の空揚げなど、お安くなっておりますが、如何でしょう?」と、言うので、
「いや、いくらなんでも、これ以上は食えんよ………。」と、答えたら、
その女店員、急に不機嫌そうな顔になって、先に買った二千円分もの焼き鳥の袋を、
ありがとうございました、とも、何も言わずに、無言でワシに突き付けたんじゃ。
信じられん女じゃろ………。
あと、ファミレスで、コーヒー一杯しか注文しなかったら、ボーイにガンを飛ばされた事もある。」
「博士、それは、世の中が段々とすさんできているって事でしょうね。
そんな時は、可愛い美人の松下奈緒ちゃんでも思い出して、嫌な事、忘れちゃいましょうよ。」
「そ、それが、先程の焼き鳥屋の女店員、顔の造りが、幾分、松下奈緒ちゃんに似ているんじゃ………。
だから………、 それ以来、奈緒ちゃんの顔を思い出すのも苦痛になって来て………。」
「博士、…… あなたは不幸を全身にまとって生きているような人だ………。
博士はどうしてそんなに不幸なんですか? どうしてですか?」